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特発性大腿骨頭壊死症②

特発性大腿骨頭壊死症①

の続きです。今度こそ『プロ野球ネタ×整形外科疾患』です。

Yah〇oのトップニュースでオリックスの某若手外野手が『この疾患で手術を受けた』との報道を確か昨年の秋ごろに見かけました。その後公式HPによると『育成契約になり』、2月頃に『再手術』またトップニュースで報道がありました。この2度の手術は、いずれも『骨頭の掻把+軟骨移植』だったようです。

①で述べた知識をもとに、これらの情報から色々妄想してみようと思います。

まず診断を受けるまでの経緯について・・・そもそも『股関節が痛い』くらいはプロスポーツ選手である以上は日常茶飯でしょうし、筋や関節の軽い機能異常ではトレーナーによる治療がなされ復帰できることが多いので、病院に行って検査されるということはおそらく少ないはずです。であれば『治療を受けたがおかしいから検査に行くように指示されて行った』ものと推察されます。

つまり、『手術以外の方法で治療をしつくした患者』かつ『早期のスポーツ復帰希望の患者』が検査の結果この診断を受けた、という時点で早々に手術の方針になると思います。

一般的に20代で『なんか何か月も股関節が痛いわ』で病院に行ってみて、レントゲンで異常が出ることはまずありません。骨頭壊死は初期にレントゲンのみで診断を付けるのは不可能に近いです。何らかの原因(外傷、ステロイド治療など)もなく骨頭壊死はまず起こりませんので、いきなり疑うことはありません。時間をかけて再度レントゲン撮影して確認したり、MRIに検査を進めていきます。特徴的な痛がり方があるので、初診でも疑えばいきなりMRIに行っていただくこともありますが、発症から診断がつくまで数か月を要する場合のある疾患となります。

ちなみに診断が付いても、この年齢でいきなり手術を言われたら引きます。なので私が当院で診断を付けたら、とりあえず痛み止めを飲みながら、松葉杖などで体重をかけないで生活を指導し、『手術の可能性もあるよ』と心の準備をしてもらってから専門病院での診察をお勧めします。

さて、①で述べた通り、ざっくり3つの手術があります。『骨頭の掻把+軟骨移植』、『骨切り術』、『人工関節』です。それぞれメリットデメリットを・・・

まず人工関節。メリットは、1回手術をすれば、向こう10-20年程度は再手術がほぼ不要で、リハビリメニューも難しくないことです。ある程度高齢であれば第一選択になりますが、基本的にスポーツは軽いものまでの手術ですので、プロ野球選手復帰を望む患者には論外です(でなくてもこの年齢ならできれば避けたい手術です)。

そして自身の骨を温存できる残り二つの手術について。

まず今回の『骨頭の掻把+軟骨移植』。これは壊死範囲が小さい場合に選択される術式で、壊死した部分を取り除き、別の部分から健康な軟骨を持ってきて、取り除いた部分に移植する手術です。うまく軟骨が生着してくれれば、骨切りや人工関節に比べはるかに小さな手術で済みますし、可動域制限なども比較的ましです。が、その後壊死範囲が大きくなったりすると、再手術が必要になりますし、そうでなくても絶対に生着するとも言い切れません。

そして骨切り術、いったん骨折させて角度を変えてつなぎなおす手術です。壊死範囲が大きければ選択されうる手術ですが、可動域が減ることは確定で、筋肉の走り方まで変わる手術です。子供の時から反復練習と試行錯誤による微調整でここまでたどり着いた選手に、再度体の使い方をマイナスから覚えなおす。相当至難の業でしょう。

 

以上から、壊死範囲がどの程度か存じ上げませんが、何度か(手術で)壊死部分に軟骨を埋めなおして骨頭の形状を維持しながら壊死部の炎症が落ち着くのを待つ形になるのではないでしょうか。ダメージが比較的少ないとはいえ、よそから持ってきた軟骨部分に体重がかかるので、ある程度なじむまで体重をかけられない期間が存在します。そしてその間筋力は落ちます。可動域を維持できたとしても、元のレベルまで筋力を戻せるかは相当の努力を要します。手術を繰り返せばなおさらです。

 

以上、病名とニュースのタイトルから色々想像してみました。画像も見ず、診察もせず、本人の意見も聞かずに治療方針は決められませんので、あくまで病名だけから推察されるわたし個人の妄想です。引用しないでください(誰もしないでしょうが)。

Go〇gle検索すると前述のほかに『8割くらいは復帰は厳しいとの専門家の意見』があるとのニュースもありました。正直私も同意見です。逆に復帰できれば一度は応援に行ってみたい選手になると思います。二軍であっても試合復帰しているのを見られれば一度は応援しに行きたいですね、二軍球場は舞洲なのでかなり遠いですが。

しかしいつも思いますが、Go〇gle検索で出てきた冒頭の情報は、オリックスの公式HPの12月に『育成契約しました』以上の情報はなく、本人のブログなども出てきませんでした。マスコミさんはどこからこんな情報を仕入れたでしょうねぇ・・・思いっきり個人情報ですので、本人直撃以外からであれば、実名報道+病名+術式までバラすってどうなんでしょ。守秘義務が・・・と厳しく教育され続けてきた者からすると理解できません。

中川和也 拝