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中間楔状骨骨折

いきなり聞きなれない言葉です。普通に生活しているとまず聞かない骨の名前です。

9月19日にマーティンが自打球を受け、遠征先から千葉に帰った後で精査後に判明した病名です。この骨折について真面目に考察してみました。非常に長文になりますし、結構難しい話ですので、⑴を読んで、飽きたら⑷まで飛んでください。

 

⑴ どこにあるの?

足の甲を見て真ん中やや内側らへんです(笑)。左の絵ですが、これは右足を上から見た絵です。

足の裏に絵の具を付けて紙に押し付けるとだいたいボールペンで書いた黒枠のような足あとになります。

そのままレントゲンの板に置いて写真を撮ると赤線のこんな感じに骨がうつります。足はかかとからつま先までで教科書的には26個の骨があります(数えても25個しかありませんが踵の骨の上にもう一つ骨があります)。つま先から順に前足部、中足部、後足部とブロックに分けられ、中足部の骨のうちの赤くぬった骨がそれです。

 

⑵ さて、なんとなく場所が分かったところで、どんな場面でこの骨折が起こるのでしょう?

ざっくり二パターンです。

・一つは今回のケースのように、この骨にピンポイントに強い力で固い物が直撃するケース(直達外力)です。

・もう一つは、前足部と中足部の間にひねる力や折り曲げる力がかかった時(介達外力)です。自転車などで足の前の方(絵で言う所の中足骨を数本)を踏まれたままバランスを崩して転倒するなどでしょうか。

いずれのケースも偶然が重なる必要があるため、比較的まれな外傷です。

前者では、1cm角の的にピンポイントに固いものをある程度以上強い力で当たる必要があります。後者もまた、自転車に踏まれ・・・のようなシチュエーションでは、足を踏まれてもこけるまでにタイヤが踏み越えられることがほとんどでしょうから、そのタイミングでこけるのは何らかの悪い条件が重なる必要があります。ただこういったケースではこの骨を単独で骨折するケースはほぼ皆無です(普通は隣の骨や中足骨の根元など他の骨も折れます)。

そして、中足部はブロック状の骨がいくつも重なり合っている場所です。隣の骨の輪郭が骨折線にかかっていた場合は判明しませんし、きれいな骨折線が入ることもまずありませんので、受傷直後のレントゲンでは偶然が味方しなければうつりません。

直達外力による単独骨折は、周りを積み木のようにがっちり固められた場所ですので、(必要に応じギプスをまいて)体重さえかけなければ非常に安定しています。骨折形もヒビかせいぜい陥没している形なので、骨自体も安定しています。例えなら、1cmの木のブロックにひびが入っていたりへこんでいても、容易には壊せません。骨もこれくらい安定しています。そして骨は折れている所がある程度安定しており、時期ごとに適度な刺激を与えることで自然と修復されます。つまり炎症がひくまでおとなしくして、その後痛みに応じて歩いているうちに自然に治ることがほとんどです。

一方、介達外力でのダメージは(CTやMRIなどで精査の上で)たとえ骨の異常がこれだけであっても、ダメージを受けた部位は骨だけでなく、骨同士の間の組織(靱帯:レントゲンにはうつりませんが非常に強固に骨同士をつないでいます)も損傷しているため、結構重症です。受傷直後から『歩いたらあかんやろ!』位の腫れ方や痛がり方をします。ヒビ一本だから大丈夫ではない骨折で、骨だけ見て治療すると後遺症(歩くと痛いなど)を残すはずです(単独骨折なんか見たことないけど)。

 

⑶ 治療について

その前に足の機能について:足は、体重をかけるとかけた重さに応じて各骨たちが微妙に並びを変えます。車のサスペンション機能のように動くことによって衝撃を和らげることができるような構造になっています。中足部ではイラストの右の絵のようにアーチ状になっており、この骨はその頂点にはまり込むような形をしています。

治療としては、『損傷していない靱帯が固まらないように動かしながら、折れた骨が治るのを待つ』が方針になります。受傷直後から体重をかけて歩くと折れたところの炎症がひどくなりいつまでも歩いた痛みが引かないとなりますし、逆に固定期間や体重をかけない期間が長すぎると足全体の柔軟性が落ち結局体重をかけると痛い足になります。

つまり炎症がひくまでおとなしくして、引いてきたら痛みに応じて体重をかけたり体操をしたりが治療になります。必要がなければたくさん歩く、走る、体重をかけすぎる、力仕事をする、などは受傷初期には避けるべきでし、ある程度の時期以降もこういった作業は加減しながら行うべきです。どうしてもせねばならない場合は、軽症であってもアーチを下から支える足底板という装具を靴に入れて仕事をしてもらったりします。

 

⑷ 前置きが長くなりましたが、マーティンのケースについての考察。

『自打球で受傷』『遠征先では抹消せず千葉に帰って精査』『千葉に帰ってからの診断は中間楔状骨骨折』『9/19受傷で、10/3の二軍戦でDHで出場』。この辺りのキーワードから推察してみます。

6回の自打球のあと守備にもついて7回の死球で代走岡となっています。受傷直後は『スパイクで固定していれば走れた骨折』か、『痛くなかったけど靴を脱いだら腫れていた/痛かった』と考えられます。現地では強い腫れで無かったのでアイシングなどをしながら様子見で、『千葉で精査』になったのでしょう。診断には数日かかりますが、『体重をかけない』ことが一番の治療なのでこの診断の遅れには何ら問題はありません。その間も徐々に骨折部は固まります。

しかし、シーズン終盤の優勝争い真っただ中の主力外国人選手、本人的には『早く復帰を』の気持ちが強かったでしょう。この骨折の治療にはこの気持ちが一番厄介で、『たいした痛みちゃうからやれる』と頑張りすぎると逆に復帰に時間がかかります。お仕事は外野手ですので、守備でも長距離を走ったりジャンプしたり、スローイングやバッティングで踏み込んだり一塁までダッシュしたりと、局所安静の観点からはやって欲しくない動作のオンパレードです。2週間で復帰できたところを見ると、『①きちんと医師の言うこと』を、『②スペイン語の通訳さんがうまく伝え』て、『③はやる気持ちを自制して』『④真面目に治療をした』証左と思います。③だけでも難しいのに、②が間に入りますのでね。通訳さんも理解が非常に難しい場所なのに、うまく伝えてくれたんだと思います。

 

ニュースのキーワードから色々と裏側を想像して、『まじめなんやなぁ』『やっぱ男前やなぁ』と勝手に妄想し、もっとファンになりました(笑)。

チームは落ちてきているけど、何とかくらいついていって下さい。たぶんCSか日本シリーズくらいまでは守備には就かないでしょうけど、DHマーティンがいるだけで打線の迫力は変わります。再燃しない程度に頑張って欲しいです。

中川和也 拝