シーズンオフにシーズンオフになると、選手の手術のニュースが出てきます。今季はかなり多く、現時点で(10/18)4件の手術が行われたようです。
第一段は河村説人投手です。
2020年のドラ4の大卒投手です。192cmの長身から投げ下ろすタイプの投手で、ルーキーイヤーの2021年に開幕一軍を勝ち取り、開幕戦で華々しくデビューしました。しかし徐々に打ち込まれ、5月くらいに二軍落ちしました。が、そこで先発として結果を残し、七夕の夜に一軍初勝利を挙げてから、谷間の先発として4勝1敗と勝ち越し、CS進出に大いに貢献してくれました。今期は開幕こそは逃しましたが、5月に昇格し先発ローテーションで投げ始めていましたが、合計4度の先発登板(2勝)ののち一軍から消息を絶っていました。そして過日、右尺骨神経前方移行術および右肘内側側副靭帯補強術を受けたようです(公式HP参照: https://www.marines.co.jp/news/detail/00008456.html)。復帰まで5~6ヵ月とのことなので、二軍で投げ始めるのは早くて来季の春くらいでしょうか。
ここからはご本人に直接取材したりはしておらず、あくまで手術名から私が勝手に考察しているだけの記事です。真偽のほどは定かではありませんので引用/拡散などはしないでください。
ニュースを見て気になった点が2点あります。一つは終盤とはいえシーズン中に手術を決断した点と、もう一つは手術名が二つ並んでいる点です。
まず手術名と内容について
①尺骨神経前方移行術
新年早々に肘部管症候群の記事(http://s-nakagawa.net/2022/02/21/%e8%82%98%e9%83%a8%e7%ae%a1%e7%97%87%e5%80%99%e7%be%a4%e3%80%80%e5%89%8d%e7%b7%a8/)で書きました内容そのままです。
尺骨神経は頸椎からわきの下を通り肘の内側を経て薬指や小指の方に向かっています。そのひじのレベルではひじの骨の内側の突起の後ろ側(伸側)にある窪みに回り込み、肘を超えると前腕の筋肉の間に入っていきます。手術は、骨の後ろにある窪みの上の靱帯(くぼみからこぼれないように押さえている蓋の役割)を切り、神経をその窪みから出して、遊びを作った状態で内側の突起の前に移行します。前腕の筋肉に入っていく部分(オズボーンバンド)がきつければ、そちらも少し切って遊びを作る場合があります。この手術自体は、大きなものではなく、術後の固定もあまり必要ないので復帰に5-6ヶ月もかかることはないと思います。
②肘内側側副靭帯補強術
内側側副靱帯とは、ひじの関節を内側から支えるブランコのひものような仕事をする組織です。投手は肘をひねりながら球を投げるので、肘には回旋力がかかりこの靱帯は投げるたびにねじりながら引っ張る力がかかります。靱帯は筋肉ほど柔軟性はないのですると、負荷をかけ続けるとささくれて、傷つきながら治ったり(伸びる)、切れたりします。靱帯の仕事は支えることなので、切れたり伸びすぎたりすると、投げる時に痛みが生じます。投げられないほどの痛みなら手術が選択されます。ここから先はさらに専門的な話になるので詳細は知りませんが、靭帯はまだ利用できる状態だったのでしょう。いわゆるトミージョン手術のように腱を移植して靱帯の代わりとするのではなく、おそらく伸びた靱帯を修復し、いい感じの緊張にして、骨に打ち込んだアンカーに括り付ける手術だったのではないでしょうか。これは生着するまでにはかなり時間がかかるでしょうから、日常生活2-3ヶ月、投球となると5-6ケ月になるのはこれが原因と考えられます。
ってことで最初の疑問に戻ります。
I 時期について
きっと強い球を投げられないほどの痛みだったのでしょう。また②の術後のリハビリ期間が長くなることも見込みんで、今季は諦めて来季に賭けたのだと思います。
II 手術が二つ並んでいる
実は①を行った理由としては2つのケースが考えられます。
術前に尺骨神経の症状があったケースと無症状だったケースです。
つまり、神経が骨棘や筋肉などで押さえつけられて尺骨神経の症状が出ていたケースと、神経そのものは傷んでおらず、単独では手術の必要性が全くないケースです。
②の手術はかなりデリケートな手術です。麻酔がかかった状態で投球時の筋肉や靱帯の緊張を想定しながら、靱帯の緊張を調整する手術です。しかも傷んだ靱帯なので、糸をかけたいところが、それに耐えられる強度が残っているかの問題もあります。それを、結構神経のそばで操作をします。骨にアンカーを打ち込んだり靱帯を縫い付けたりする操作をするときに、神経を巻き込んでしまうわけにはいきません。また、術後靱帯が生着するにあたって、神経も一緒に癒着されたら次は神経の手術までしなくてはなりません。なので、まず神経を安全なところにエスケープさせて安全に②が行える環境を作る、かつ術後の癒着のリスクも減らすために①の手術を行います。なので尺骨神経の症状の有無にかかわらず、①の手術は必要になります。
さて、手術名だけでの推察ではありましたが、なんかけっこう重症そうな印象です。年内は日常生活訓練と健側や体幹、下半身のトレーニング、たぶん年明け後くらいから患肢のトレーニングと大変でしょう。春くらいから二軍で投げ始め、また中から終盤の投手陣がばててきた時の先発の救世主になってくれることを祈っています。
最後にもう一度、この記事は個人の推察です。真偽のほどは定かではありませんので引用/拡散などはしないでください。
中川和也 拝