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肘部管症候群 後編

肘部管症候群 前編

今年2発目です。前編に続いての話です。

肘部管症候群にて利き腕の手術を受けた、ロッテの某コーチのお話を受けて、前編では主に、この病気はどんなんやという内容を書きました。そして後編では、いち整形外科としての勝手な思いを書いてみます。

 

④なんでこんな記事を書いたか

『これまでの投げ過ぎが私生活にも影響が出るとは思ってもみなかった。』とそのブログで書かれていたためです。われわれ整形外科医の中では当然の話(学生時代の教科書である標準整形外科に書いてある内容)は、知る機会がないため一般の人には寝耳に水になります。また、現役選手が手術をするわけでもないのでニュースにもなりません。あえて勉強しに行かなければ誰も知りえません。

じゃあここでも読者がいるし読んでくれればくらいで書いておこう、『とりあえず整形外科に行けばいいのか』と知ってもらえれば、くらいの感じで書いてみました。

特にひじが伸びなくなった成人が壮年になりしびれがでてきた人、変形はないけど良く投げるスポーツをしている子供の指導者や親あたりが知る機会になればなぁ。前者は自分事として、後者は将来ある子供のために責任を持って欲しいといった思いです。子供の投げすぎで野球ひじ、肩になるというのは有名です。また、中高生まで成長してひじが伸びなくなった子供を見たこともあるでしょう。しかししびれが出る頃(壮年)のことまでは当然誰も知りません。必ずしも発症する訳ではないですので責任を感じる必要はないかもしれませんが。

 

⑤自然経過と(個人的な思いも含めた)治療のタイミング

ひたすら我慢しても、薬指と小指が曲がったまま固まり日常生活に支障が出るだけで、この病気が原因で致命的になることはありません。

初期であれば症状は『しびれ/痛み』です。この時期には、こまめなストレッチが大事な時期です(電気治療が効果を示すこともあります)。手術したいと思うほどの症状まで症状が進行し、手術によってそれが改善される見込みがあれば手術療法を勧めます。この時期の手術であれば、術後多少しびれは残ることはありますが、手術でそれなりの回復が見込めます。

それを放置し『動きにくい』症状まで進行すると、早期(動かなくなり始めくらいの時期)であれば手術で回復の可能性もあります(整形外科医としては遅くてもここくらいで見つけたい)が、それを数か月くらい過ぎると回復の見込みが低くなります。

さらに放置すると、先述の通り『薬指と小指が曲がったまま固まり』ます。手術ではよくなりませんが、これ以上悪くもなりませんので最終形態と言えるかもしれません。この時点であれば、『何でここまで我慢した・・・』というのが本音になります。

 

⑥最後に

神経の障害は長年かけて起こるため、現役時代にこの手術をした人はあまり聞きません。少なくとも自分がチェックできる範囲のスポーツニュースでは全く出てきません。理由は簡単で、そもそも現役のアスリートは、よほどのことがない限り手術はしたがりません。よほどの事とは、『じん帯のゆるみが原因で物理的に強い球が投げられない』ので、靭帯の補強手術(いわゆるトミージョン手術など)や、『痛みを我慢すれば投げられるんだけど、ひじの関節内に引っ掛かりがある』、オフまでは我慢して投げて(低侵襲でシーズンへの影響が少ない)関節鏡でクリーニング手術などが当たります(我慢の限界が来てシーズン中に手術し、半分を棒に振るケースもありますが)。

一方『しびれるだけで投げられる』うえに『シーズンへの影響が及ぶ可能性がある手術』は当然現役選手に避けられます。また、引退後の選手の手術は話題に上ることはありません。今回も個人的に定期的にみているコーチのブログでたまたま見つけただけです。コーチが手術を受けようが、いずれにしても投げませんし、ギプスを巻いてベンチにいるわけではありませんので、服を着れば見た目は普通です。誰も手術したなんて気づきません。

ちょっとマジメ風の話になりました。

シーズン中に投げるわけでもないコーチの手術、ギプスが無くなれば普通の人に見える術後経過、さらに、不人気球団のロッテ。記事にならない条件は揃っています(笑)。

2年ほど前に『現役で未来のエース種市が手術しました』ですらどの程度読まれたんでしょう。また、そろそろ復帰し始めそうな時期ではありますが、教育リーグやオープン戦で投げる気配はありませんねぇ。また、どの程度回復しているかはニュースがありません(探すのが甘いかもしれませんが、ロッテやし・・・かも)。

最後は愚痴になりましたが、こんな病気もあるんやなぁくらいで知っていただければ幸いです。最後まで読めた人はかなりすごいと思います。

中川和也 拝