各病院で診療科として挙げられている『リハビリテーション科』。科が存在する以上は医師もいるハズです。療法士ではなく医師です(いずれも病院では先生と呼ばれます)。正直聞いたことありますか?
#リハ科医ってなんですか・・・??
私は松下記念病院に就任するまで、専任の医師と話したことはありませんでした。たいてい整形外科や神経内科/外科などの医師が兼任していました。学生時代の授業でも、診療科として習った記憶がありません。整形外科を専任していた間、理学療法士や作業療法士とは話しましたし、かなり身近な存在でした。でも医師・・・??
日本リハビリテーション医学会のHPでトップに、「「リハビリテーション科専門医」をご存知でしょうか?」から始まります。知名度が低いわけです。そして、その医師像とは「病気や外傷の結果生じる障害を医学的に診断治療し、機能回復と社会復帰を総合的に提供することを専門とする医師」です。うーん分かりにくい。
リハ科医とは??前述の標語を元に、私なりに試行錯誤しながら、3年間も曲りなりに専業リハ科医(兼整形外科医)をやってきました。ただ、一人きりでしたし、正直本来のリハ科医からは程遠いと思います。完全に我流のリハ科医像です。
① まず標語について考えました。「病名や外傷」よりも「障害(症状、状態)」に重きを置いています。各診療科の病名から一歩引いて、「この患者さんが社会生活を送るために必要な訓練は何か?」を考えること、ここからスタートしました。
② リハ科の医師は、麻酔科や放射線科のように、主科になる診療科ではありません(ペインクリニックや放射線療法、嚥下リハなど特殊分野は除きます)。主科となる科の医師を、専門領域の部分の知識でサポートする診療科です。私がしていた仕事は、各科から患者さんのリハビリを依頼されると、「診察して適した療法士を派遣する」、「派遣した療法士が行ったことが適切であったか評価する」、具体的にはこれだけです。
麻酔科は麻酔薬の知識、放射線科は画像の読影力、治療道具は道具で、医師がベストと思ったタイミングで使用します(主役は医師)。ところが、リハ科医の治療道具は人(派遣された療法士)です。診察し、診断をつけますが、その場その場の治療は現場で療法士(理学、作業、言語)たちが行います(主役は療法士)。よって、「治療の主役は私ではないので、病態をしっかり把握して、療法士がうまく治療できるようにサポートする事」が実際の役割と考えました。
③ ②のためは、その患者さんを診て病態を把握し、自分なりの方針を立てなければなりません。そのうえで、リハ科の医師として各内科、各外科、整形外科、脳神経内科/外科の主治医の先生方にいろいろ依頼や意見をしました。疾患も整形外科疾患だけでなく、血管疾患から神経疾患、呼吸器疾患に循環器疾患、がんや緩和ケアまで様々な患者さんと話しました。
④ 退院時「体力落ちてるから無理しないや~」程度で歩いて帰る能力のある患者さんばかりではありません。介護など考えたことがない方が、退院するときには自宅に帰るなんてとんでもないレベルまで足腰が弱ることもままありました。その疾患に囚われない第三者の医師とだからこそ生活/社会復帰の方法もあります。
ということで
①病名から一歩引く(見えるけど見ないふり)。
②治療の主役は自分ではないことを理解する。
③依頼を受けた患者さん全員と話し、簡単な運動器の診察をする。
④退院前カンファレンスがある場合は、最低でも内容を聞くようにする。
最終的にはこれがリハ科医像なのかなと思っていました(あくまで私的な考え方です)。
#運動器を診る医師としての整形外科医とリハ科医の違い・・・
手首の骨折で考えてみます。手術の要否に関わらず整形外科医もリハ科医も関連します。整形外科医は「折れた骨をいかにいい形にくっつけるか」「治癒時期ごとに患部にかけてよい負荷の強さ」「最終的に手首がどの程度動かせるようになるか」を考えます。一方リハビリテーション科医は、「治癒過程の中で、その時期ごとの腕の全体の負荷を減らすこと」「症状が残った場合にどう生活に取り込むか」を考えます。
極端に言えば、整形外科医は折れた骨の付け方、その周囲の関節の動きを考え、リハ科医は、骨折しているかどうかすら置いといて、その腕そのものをどう使うかを考える、くっきり分けるならこんな感じです。もちろん診療科が分かれているとはいえ、10:0の医師はいないでしょうけど・・・
ホームページを模様替えしている間にリハ科医であった頃を思い出し、その像についてまとめてみました。長文を読んで頂き有難うございました。
中川和也 拝